── まずは、自主企画〈首〉の始まりから聞かせてください。
「そういえば先日ちょうど、実家に帰った時にたまたま〈首Vol.1〉のフライヤーが出てきて。それがまたけっこうネタに事欠かない感じで……(スマホの写真フォルダを見せてくれる)」
── おぉ。2006年5月12日、下北沢ガレージで。オープニングアクトを含めて5バンドを呼んでいますね。
「そう。で、ここに書いてある赤い文字がヤバい」
── ……『飽和しているロックシーンに波紋を起こすロックイベント』。あははははは!
「これ誰が考えたのかわかんない。僕はその当時フライヤーのデザイン関係とかまったくいじれてないから、たぶんケンゴくんか、ガレージの店長が考えてくれたコピーだと思うんですけど……食らったなぁ(苦笑)」
── 企画はどんな感じでスタートしたんですか。
「あの、なんとなく東京でライヴを始めたのが2005年の夏ぐらいからで、ガレージとか渋谷の屋根裏を拠点にしてて。当時はブッキングのイベント中心でしたけど、ガレージのオーナーに『自主企画とかやってみれば?』って言われて、あぁそういうものがあるのかって。だから大義名分とか、こんなことを実現したいっていう好奇心も最初はそんなになかったんですよね。自分たちで好きなバンドを呼んでいいらしい、場所があるならやってみよう、ぐらいの感じ。ただ、次に誰を呼ぶか考えていけば、どんどんアイディアが必要になってくるじゃないですか。だからやっていくうちに変わってきたんですね」
── そのわりに、最初からインパクトのあるタイトルを付けましたね。
「これは、自分たちが大好きなMEAT EATERSっていうインディ・バンドがいて。彼らの中でも一番好きな曲が「首」っていう曲で。〈世界がクソなのは自分自身がクソだから/うんざりするほど当たり前のことさ〉って歌い始めなんですよ。その歌詞に尽きるというか。何かいいことや素晴らしいことを、自分たちで、まぐれじゃない形で実現させたいっていう気持ち。それは後から意味として加わってきましたね」
MEAT EATERS - “レミング”
── 2006年に始まった〈首〉は、その後どう続いていくんですか。
「えっと……3ヶ月に1回くらい、会場を変えつつやっていくんですけど。ただ、UK. PROJECTからデビューした後は誘うバンドの範囲も広がっていって。対バン形式のイベントは組んでいましたけど、〈首〉っていう名前じゃなくて、その都度違うタイトルとかテーマをつけるようになっていましたね。だから、新たにやり始めたのはMERZをスタートしてから。また新たに対バンイベントをやりたいと思った時に、新しく名前を設けるよりかは原点に帰ろうと。それで〈首〉をまたやってみようって」
── そこから、この企画への思いや意味合いって変わりました?
「自分たちがずっとフロアでライヴを見ていたいと思う人たちを呼ぶ、そこにどんどん焦点が合うようになりましたね。やっぱり以前はいろんな人のアイディアが入ってきたんですよ。動員のことも考えて。もちろんそれはイベントを打つにあたって大事なことで、アドバイスとして言われたことには納得していましたけど。ただ、振り返れば『そんなに聴いたことないけど……』みたいな状態で僕が乗っちゃったこともあったので。それはなくなりました。だからライヴの準備ってことを考えれば良し悪しですけど、ずっとフロアでライヴ見ちゃうんですよ。格好いいバンドばっかりだから」
── 近年で印象に残っているのは、やっぱり2016年の〈首〉シリーズですかね。ほぼ毎月展開されていて。
THE NOVEMBERS 11th Anniversary Year - FILM 1
「そうですね。ユニットでBorisとKlan Aileenとやったり、MONOとか、yukihiroさん(acid android)、あとはThe Birthdayを呼んだり。あの時はやっぱり11周年だから特別なことをやりたいっていうイメージから始まって、11月11日にコーストでワンマンっていうゴールがあったから。そこに至るまでに素晴らしい音楽家たちと共演して、いろんな体験をして、新しい自分たちになっていくっていう、その変化をドキュメント的に楽しめたらいいなっていう気持ちでしたね。で、意義もすごく大きかったです。バンドとしてすごく成長できた実感があったし、いろんな学びがありましたね」
── そして今回の〈首〉です。先日一気に発表されましたね。
「はい。今年の11月11日にリキッドルームのワンマンがあるんですけど、その前に、この秋いろいろ面白いことを自分たちがちゃんとプロデュースする形でやりたいなって考えていて。で、10月のユニットを2デイズで押さえられるかもしれないって話があったので、じゃあ〈首〉を2夜連続でやろうと」
── この2デイズはセットリストも趣向を変えていくそうで。
「はい。リキッドでのワンマンは今年やったことの集大成、あとは新しいTHE NOVEMBERSの布石になるものがメインになると思うんですけど。でもユニットはせっかくの2デイズなので、この共演ならではのセットリストだなって思えるような違いを、いい意味で楽しめるようなものにしようと思っています」
── あとは10月22日の神戸と、翌23日には京都ワンマンもありますね。
「そうですね。これは〈全感覚祭〉(GEZANの主宰イベント)が決まったので、せっかく大阪に行くんだったらちゃんと特別ことをやりたいなって。よく『東京ばっかり…』って不満を言われるので(笑)」
── メンツもかなり面白いです。Klan AileenとAge Factory。
Klan Aileen - “脱獄” Live At Fever
Age Factory - “GOLD”
「そう、実はKlanは僕らの企画の最多出場バンドなんですよ(笑)。彼らとはまたやりたいと思っていたし、新譜もすごく良かったから。で、Age Factoryはこの間彼らの企画に呼んでもらったし、すごく好きなバンドなので。彼らがKlanと一緒にやったらどうなるんだろうって興味もあって」
── ……仲良くならなそうだなぁ(笑)。
「ですよね(笑)。あと東京に呼んだTAWINGSはずっと格好いいなと思ってたバンドで。とにかくポストパンクが好きで、ああいう形でやってるのがすごくいいなと。これもKlanと一緒にやったらどうなるのかなっていう興味ですね。スリーマンでどうなるか。それぞれワンマンでは実現しないようなことも起きるんじゃないのかなっていう組み合わせだと思いますね」
── ツーバンはガチンコの勝負ですけど、スリーマンになるとまた違うケミストリーが起きたりするものですか。
「起きますね。アウェイって言葉で論じようとすると絶対に本質から離れていくものがあって。もちろん『いつも通りの自分たちで、いつも通りやろう』ってみんな考えると思うんですけど、やっぱり、どうにもこうにも聴こえ方が変わっちゃうんですよね。あとは『あ、この人たちこんなことするんだ?』ってわかることもあって。たとえばラウドなバンドに挟まれたドリーム・ポップっぽいバンドが、急に凶暴化したり、逆にまったく一ミリも動じない凄みを見せるとか。そうやって試されてる感覚を各々が持ってるから、3バンドぐらいだと一番いい緊張感があるんですよね」
── 楽しみです。ただ、残念ながらファンの中には「ワンマンのほうが見たい」という声も根強いわけで。正直わかるところもあるんですけど、これに対して小林さんから言えることはありますか。
「……僕は、一夜でいろんなバンドを観ることが出来てお得、ぐらいの気持ち。あとは好きなものが増える可能性に一票っていう感じですかね。生活の仕方として。でもそこは信頼、信用の問題ですよね。『THE NOVEMBERSが企画するんだったら行こう』っていう。第一回目からそういう信念を持ってやってきた人たちと、僕みたいに途中から気づいて本当に信じられるものを残そうって考え始めた人とで比べると、やっぱり積み重ねてきた信頼が違うような気はします。今みたいな意識を持って続けてるのは2015年以前の話だから」
── 少なくとも、2016年の〈首〉で「うわっ、こんなバンドがいるの?」と発見できた人は、その信頼があるでしょう。
「うん、そうだといいですね」
── この日に賭ける意気込み、小林さん自身が作ったというフライヤーからも伝わります。
「はい。これはもう色味がこだわりだったんですけど。スミス・カラーをちゃんと踏襲して」
── ……あぁ! 言われてみれば。
「カラフルなんだけどシックに見える色ってなんだろうって思いながら、スミスのジャケットとにらめっこして。ちょっと明度はこうだなとか、シアンを足してみようとか。入ってくる線の位置とかもちゃんとスミスの作品にあるもので。あとインスパイアされたところでいえば、エヴァンゲリンオンなので。だからこれは、エヴァンゲリンオンとスミスのマリアージュです(笑)」